高次脳機能障害における後遺障害等級認定のポイント

高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害とは、脳に重大な損傷を負い、一見普通に見えても、以前と比較すると記憶力が低下していたり、感情のコントロールができなくなっていたり、作業の反復継続ができなくなっていたりといった症状があらわれ、脳機能が障害された状態を言います。

第1 高次脳機能障害の問題点

1.見過ごされることが多いこと
高次脳機能障害では身体的な症状はほぼなないか軽度なものであることから見過ごされることが多いのが特徴です。
家族やまわりの人、医師からも見過ごされることが多いのです。
しかし、感覚障害、言語障害、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状により、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすことから、適切な後遺障害等級及び補償を受けないと本人及びご家族の生活は壊れてしまいます。

2.後遺障害等級認定の立証が難しいこと
高次脳機能障害は、身体的な症状はほぼなないか軽度なものであることから後遺障害等級の認定が難しいという点も特徴です。
高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けるためには、しっかりとした立証活動を行う必要があります。
後遺障害等級の認定については後述する「高次脳機能障害における後遺障害等級認定のポイント」をご覧ください。

3.賠償額が高額になり、後遺障害等級の認定が非常に重要なこと
高次脳機能障害において後遺障害等級が認定される場合は、1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号が問題になりますが、その重度の障害から賠償額も高額になります。そして、等級が1つ違うだけで数百万円から数千万円も賠償額が変わってきますので、後遺障害等級の認定が非常に重要になります。

4.ご家族が相談する相手がいないこと
高次脳機能障害においては、ご家族が本人の異変に気が付いてもどこに相談していいのかわからないという問題があります。
高次脳機能障害は医学的にも高度なレベルの問題であり、治療先の医師に相談してもよくわからない、後遺障害診断書を記載するのを医師がためらうということもあります。まずはご相談ください。
5.保険会社の示談提示額が適正なのかわからないこと
高次脳機能障害は医学的にも高度なレベルであり、交通事故の後遺障害の中でも最も難しい問題の1つです。そのため、保険会社から示談金を提示されてもその額が適正なのかそうでないのか全くわからないということになります。

第2 高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害では、①意思疎通能力、②問題解決能力、③持続力・持久力、④社会行動能力に障害がみられ、具体的には以下のような症状が現れます。

・今まで普通に話すことができたのに普通に話せなくなった
・些細なことで怒るようになった
・いつも疲れていて家でゴロゴロ、居眠りが多い。突然、寝落ちする。
・幼児に返ったように行動し、発言が子供っぽくなった
・事故以来、物忘れがひどくなった
・家族全員の名前が出てこない
・新しく出会った人の顔を覚えられない
・近隣でも迷子になったことがある
・歩いていてよく左肩をぶつける
・片側から話しかけられても反応しない、片側に人が立っていても存在に気づかない
・同時にいくつかの作業を進めることができない、一つのことに固執する
・集中力が極端に低下した
・明るくよくしゃべる人だったのに、無口で暗くなった
・掃除、片づけをまったくしなくなり、部屋は散らかり放題になった
・味がついているのに、大量に醤油をかけて食べる
・まっすぐ歩けず、蛇行している

第3 高次脳機能障害における後遺障害等級認定のポイント

高次脳機能障害認定の3要件
1 頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること、
2 頭部外傷を示す以下の傷病名が診断されていること、
3 上記の傷病名が、画像で確認できること、

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第1段階の立証

1.頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること
入口部分の3つの要件の中では、意識障害所見が最も重要となります。
半昏睡~昏睡状態が6時間以上継続していれば、立証上は問題もありませんが、5、7、9級では、外傷後健忘や軽度の意識障害であり、担当医が、入院中の被害者をつぶさに検証して、その詳細を把握することは、現実問題として困難です。
この意識障害の立証がもっとも難しいハードルです。

2.頭部外傷を示す以下の傷病名が診断されていること
高次脳機能障害に特有の、記憶喪失、記憶回路の損傷、遂行機能の障害、失語、聴覚、嗅覚の脱失、言語理解や認知の低下などの異常行動は、全て、傷病名を出発点としているため、診断書に記載されている傷病名について、正しく認識をすることが必要です。その後の立証活動にもかかわってくるからです。

(1) 脳挫傷
脳挫傷とは、外傷による局所の脳組織の挫滅、衝撃により組織が砕けてしまう損傷のことです。
脳挫傷は出血を伴い、出欠が塊となり血腫を形成すれば、その部位に応じた傷病名となります。頭部を打撲した衝撃により、打撲部位の直下の脳組織が挫滅します。
脳挫傷の局所症状として、半身の麻痺、半身の感覚障害、言語障害、痙攣発作などが出現することがあります。

(2) びまん性軸索損傷
びまん性軸索損傷では、相当に深刻な後遺障害が予想されます。 頭部に回転性の外力が加わると、脳の神経細胞の線維、つまり軸索が広範囲に断裂し、機能を失うと考えられています。びまん性軸索損傷の存在そのものが高次脳機能障害です。

頭部外傷といえば、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血を連想しがちです。 これも重傷ですが、局所性脳損傷では、挫滅した部分の脳の機能が失われるだけであり、重篤な後遺障害、認知障害を残すことは実は少ないです。 しかし、上記の画像で認められる広範囲の点状出血に伴う軸索の損傷があり、遂行機能障害、失語、記憶、聴覚や嗅覚、言語理解、認知の領域で、脳は大部分の機能を喪失してしまうのです。

びまん性軸索損傷では、受傷直後から意識を喪失しています。 脳神経外科の臨床では、頭部外傷のうち、受傷直後から6時間を超える意識消失が認められるときは、びまん性軸索損傷と定義、診断がなされています。

(3) 急性硬膜外血腫(きゅうせいこうまくがいけっしゅ)
急性硬膜外血腫頭蓋骨とは、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜の間に出血がたまって血腫になったものです。

(4) 外傷性くも膜下出血
脳を包んでいる髄膜の3層のうち、硬膜の内側にある薄いくも膜と脳の間に出血が広がったものを、くも膜下出血と言います。
通常、くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂を原因とする出血です。
外傷を原因とするときは、外傷性くも膜下出血と診断されています。

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(5) 急性硬膜下血腫
頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と、脳の間に出血がたまって血腫となったものです。
脳組織の挫滅、脳挫傷があり、そこからの出血が脳の表面、脳表と硬膜の間に流れ込み、硬膜下腫となります。
血腫による圧迫と脳挫傷のため、頭蓋内圧が亢進すると、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。血腫による圧迫が脳ヘルニア状態にまで進行すると死に至ります。

(6) 慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後慢性期、通常1~2カ月後に硬膜と脳との隙間に血腫が貯まり、血腫が脳を圧迫してみられる様々な症状です。
高齢の男性に多く、好発部位は前頭、側頭、頭頂部で、右か左かの一側性の血腫が大半です。

外傷後3週間~数カ月以内に発症し、50歳以上の高齢者の男性に多くみられます。 頭部外傷後、数週間の無症状期を経て頭痛、嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状、片側の麻痺やしびれ、痙攣、言葉がうまく話せない、呆けや意欲の低下などの精神障害とさまざまな神経症状が見られます。

また、急激な意識障害、片麻痺を発症し、さらには、脳ヘルニアで生命に危険を及ぼす急性増悪型慢性硬膜下血腫も存在します。
症状より壮年~老年期の男性で頭痛、片麻痺、歩行障害や上肢の脱力、記銘力低下、意欲減退、見当識障害、痴呆の精神症状が徐々に進行するときは、慢性硬膜下血腫を疑うことが必要です。

高齢者などでは、老人性痴呆、脳梗塞として診断されることが少なくありません。 もちろん成人でも、男女を問わず、頭部外傷後数週間を経過してから前述の症状が見られたときは、慢性硬膜下血腫を疑うべきです。

(7) 外傷性脳室出血
脳の中心部にある、脳室と呼ばれる空洞に出血したものです。
脳室は脳脊髄液で満たされており、その脳脊髄液はいくつかの脳室を順に流れていきます。

脳室と脳室の間は非常に狭い孔や通路でつながっているので、脳室内出血によって脳脊髄液の通り道が詰まると、上流にある脳室が急速に拡大して、周囲の脳を圧迫、これを急性水頭症、徐々に流れが滞り、脳室が大きくなると正常圧水頭症と診断されています。

脳組織の挫滅=脳挫傷に伴って脳室の壁が損傷を受け、そこからの出血が脳室内にたまって脳室内出血に至ります。

急性水頭症では、脳室の拡大のために頭蓋骨の内圧が高まり、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。 さらに、脳室の拡大による圧迫が脳ヘルニアの状態にまで進行すると死に至ります。

3.上記の傷病名が、画像で確認できること
上記傷病名が、XP、CT、MRIで確認されていることが不可欠です。
局所性の損傷 MRIのT2FLAIRで脳萎縮、脳室拡大の進行が確認できること、 びまん性軸索損傷の点状出血は、急性期であれば、MRIのDWI:ディフージョン、症状固定時期であれば、MRIのT2スターで陳旧性の出血痕が確認できていることが必要です。

第2段階の立証
3要件の立証が終われば、その後に行う神経心理学的検査のメニューを決定する必要から、日常生活における支障、具体的かつ詳細な内容を家族から聴き取り、①意思疎通能力、②問題解決能力、③持続力・持久力、④社会行動能力に障害がみられないか確認します。具体的には以下のような症状を確認します。

1.遂行障害・失語
(被害者の話し方を観察)
運動性失語がないか、感覚性失語がないか

(態度を観察)
怒りやすくなっていないか、疲れやすくなっていないか、集中力がなくなっていないか、幼児性が現れていないか

(家族から日常生活でのエピソードを聴き取り、ギャップを抽出する)
病識を欠如しているか

2.記憶障害
・事故以来、物忘れがひどくなった
・直前まで行っていたことを忘れてしまう
・家族全員の名前が出てこない
・言語・聴覚にまつわる記憶障害がある
・近隣でも迷子になったことがある

3.視覚認知機能
・歩いていてよく左肩をぶつける
・食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない
・片側から話しかけられても反応しない、片側に人が立っていても存在に気づかない
・家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない
・左右失認、空間認識能力の低下はないか
・主治医の顔、もしくは新しく出会った人の顔を覚えられない
・事故前は、よく使っていた電気器具の使用法を忘れてしまった

4.注意、遂行機能障害
・注意障害、集中力が極端に低下していないか
・脈絡のない行動、会話まとまりがない、話が飛びがちはないか
・同時にいくつかの作業を進めることができない、一つのことに固執することはないか
・物事を計画する、効率よく処理することができなくなっていないか
・最後までやり遂げることができないことはないか
・同時に2つの作業を進めることができないことはないか

5.情動障害、人格変化
・些細なことで怒るようになった
・幼児に返ったように行動し、発言が子供っぽくなった
・好きなお菓子ばかりを食べ続け、他の食べ物には見向きもしなくなった
・明るくよくしゃべる人だったのに、無口で暗くなった
・「誰かが私の財布を隠した。」 など、被害妄想が出てきた
・掃除、片づけをまったくしなくなり、部屋は散らかり放題になった
・いつも疲れていて家でゴロゴロ、居眠りが多い。突然、寝落ちする。

6.味覚・嗅覚・めまい・ふらつき
・味がついているのに、大量に醤油をかけて食べる ・事故後、苦手で食べられなかった魚介類が食べられるようになった ・足元にガソリンがこぼれているのに、煙草を吸おうとしてライターを取り出す ・腐った果物を平気で食べる ・まっすぐ歩けず、蛇行している ・めまいを訴える。なんでもないところで転倒する ・頭痛に悩まされている

7.麻痺では
・車椅子、杖、装具の使用しているか
・片側の足や手をよくぶつける、片側の腕や足にキズ・痣が絶えない
・火傷をする、お風呂に入る際、手や足の左右で感じる温度が違う
・自力で排便・排尿ができない、尿漏れや逆におしっこがでない

第3段階の立証
第2段階の聴き取りの結果をもとに、以下の28項目ある神経心理学的検査の中から最適な組み合わせを考え、主治医にそれらの検査の実施をお願いします。

1.ミニメンタルステート検査、MMSE
2.長谷川式簡易痴呆スケール、HDS-R
3.ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-R)
4.コース立方体組み合わせテスト、Kohs
5.ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト、WCST
6.Tinker Toy Test
7.WAB失語症検査 8標準失語症検査(SLTA)
9.老研版失語症鑑別診断検査
10.レーブン色彩マトリックス検査、RCPM
11.日本版ウェクスラー記憶検査、WMS-R
12.リパーミード行動記憶検査、RBMT
13.三宅式記銘力検査
14.ベントン視覚記銘検査
15.レイ複雑図形再生課題、ROCFT
16.街並失認、道順失認、地誌的記憶障害検査
17.抹消検査、模写検査
18.行動性無視検査、BIT
19.標準高次視知覚検査
20.トレイル・メイキング・テスト、TMT
21.パサート、Paced Auditory Serial Addition Task、PASAT
22.注意機能スクリーニング検査、D-CAT
23.標準注意検査法・標準意欲評価法、CAT・CAS
24.BADS、Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome
25.100-7等の数唱
26.MMPI ミネソタ多面人格目録
27.CAS 不安測定検査
28.ロールシャッハテスト

最終段階における立証
最終段階では、後遺障害診断書と神経系統の障害に関する医学的意見、そして、日常生活状況報告のドラフトの作成します。
完成したドラフトは、主治医のところに持ち込み、打ち合わせを行いながら、記載をお願いします。

そして、日常生活状況報告では、検査結果と聴き取りの内容から、問題点を以下の4つにまとめます。

1.意思疎通能力
2.問題解決能力
3.持続力・持久力
4.社会行動能力

お気軽にご相談を

交通事故による脳外傷によって高次脳機能障害が残存することとなってしまった場合、適切な後遺障害の認定を受け、適正な賠償金を獲得することが、以後の最低限の生活保障となってきます。

ご家族やご友人が「もしかしたら高次脳機能障害かもしれない」と感じられた場合、まずはご相談下さい。
当事務所では、高次脳機能障害について
① ご相談を受け、
② 後遺障害等級獲得手続を進め、
③ 賠償請求手続を行う体制がきっちりとできあがっています。